ひろろーぐ

小さな山村で暮らしながら、地域社会、民俗、狩猟、採集について考察・再定義するブログ

“唐津くんち”は今と昔の結び目。

ども、田口(@tagu_h1114_18です。

大学時代にお世話になったお友達が佐賀県で旅館を営んでいることがご縁で訪れることになった唐津も、今回で3度目になりました。玄界灘に面するお宿からは唐津城と虹の松原と称される巨大な防風林が見え、濃いブルーな海面にはヨットがプカプカ浮かぶ。前日入りした旅館でいただいたイカの活き造りやアラ(鯛)煮、佐賀牛に舌を打ちつつも、11月2日から4日にかけておこなわれる唐津くんちを見るのが旅の目的。地元の人が”おくんち”と呼ぶ唐津くんちは唐津神社の例祭のことで、唐津駅前近くの14つの町々の男衆が高さ5mにもなるそれぞれの曳山を曳き、唐津神社(海の神様)に奉納されます。

2日は宵ヤマといい、夜の町中を曳山が回ります。ギュウギュウになった沿道をくぐりながら一角で待っていると、「エンヤー!エンヤー!」と威勢のいい掛け声が聞こえる。陽が落ちた町内を曳山の提灯が煌々と照らし、笛と太鼓のお囃子と、山に乗った若大将の掛け声に合わせて100人以上が綱を引き、声を出し、観客の目の前をブワッと駆けぬける。獅子や兜、鯛、鯱…。鮮やかな14台の山々はどれも見応えありますが、僕は中町の青獅子がお気に入り。深緑に塗られた漆がカッコイイ。写真は京町の珠取獅子ですが…これもカッコいい!舗装された道路には、夜でもハッキリとわかる轍が残っていました。

3日は御旅所神幸といい、町中に留めておいた西の浜近くの旧小学校のグラウンドに敷いた砂浜に曳き込んでいく。昔は西の浜の御旅所と呼ばれる砂浜へ曳き込んでいたそうです。現在は数トンのヤマを曳く男衆の声は、海風にかき消されぬほど力強い。全ての曳山が出揃ったその光景は圧巻。置かれたはヤマを目と鼻の先でみられるのですが、細かく造形されたヤマにピカピカの漆が塗られていて、とっても綺麗。

晴れの日が続いた唐津くんちもいよいよフィナーレ。4日は翌日祭といって、町中を回ってきた曳山が唐津神社の脇を通って曳山展示場に収められる。陽が沈むころ、僕もその瞬間をみたくて先回りして展示場の脇から眺めていた。いざ、収めるとなると名残惜しさか、曳山は蔵の手前で止まり、お囃子も掛け声も止まない。沿道からも「エンヤー!エンヤー!」と聞こえてくる。泣いている人もいた。「唐津の人にとって1年は、このくんちのためにある。」という話をところどころで聞いた。

くんちの期間中、ヤマを曳けない女性たちは別の役割がある。集まった親戚や、祭りに関わる男衆を食べさせるために自宅で料理を振る舞う。アラ(鯛)の煮物を食べるのが慣わしで、その他に刺身やら、とにかく豪勢に振る舞いをするそう。家々の玄関は開けられ、無数の雪駄や靴が広がっていて、賑わいを感じた。唐津駅近くの町内は昔から商人の町で、鍛冶町や刀町、材木町など、江戸時代についた今も残っている。元は商売で付き合いのあるお客さんに感謝を込めて振る舞っていたらしく、今もその名残は残っているかもしれません。僕の暮らしている大鳥地域でも、お盆や正月となると本家は親戚や近所の人らをじゃんじゃん招き入れて飲食を共にしたと聞きます。今も子供や孫、親戚の往来はありますが、夜な夜な家々を渡り歩いて…という光景を目にすることはありません。だから、「なんか良いなぁ」って思ったのかも。

くんちを3日間体験して印象的だったのは、宵ヤマの光景。曳山とお囃子と掛け声と曳き手と、沿道で眺めている人たち。それはきっと、昔と大きくは変わっていないこと。300年前からおんなじように3日間やって、おんなじようにヤマを曳いて、おんなじように振る舞って、お酒を呑んだり、泣いたりしてたんだろうな、って。今と昔の結び目がくんちで、その気づきにハッ!としたと言うよりは静かにそっと、諭されたような気持ちになった。「あ、まただ」って。

そういえば”くんち”の語源は、2日と3日と4日を足し算すると、9日(くんち)になるからだそうです。カワイイ語源ですね。

翌日の玄海灘も青くて、帆が張れないくらいの凪だった…気がします。

ヤマを展示場に曳きこむ光景

今回滞在したお宿

渚館きむら

玄海灘が目の前に見える、とっても素敵なお宿です。特に料理がおススメで、イカの活き造り、アラ煮、海鮮クリームグラタン、佐賀牛など。板前さんの味付けが整っているし落ち着いていて、めちゃくちゃ美味しい。唐津の地酒もそろっています。4階の唐津茶屋では、お食事だけもOKなので気軽に問い合わせてみてください。

前回唐津に訪ねた時に書いた記事もありますのでご参考までに。

参考:渚館きむら(佐賀県唐津市)で食べたヤリイカと伊勢海老の活き作りが、ホントおいしかった。思い出したら唾液が出るほどに…。|ひろろーぐ

 

唐津くんち中に行った近隣施設

唐津城 旧唐津銀行 名護屋城博物館 唐津市近代図書館 JR山本駅

豊臣秀吉時代の朝鮮出兵の歴史や、中世~近代までの唐津の歴史が学べます。昔は藩を上げて鯨を獲ったり、海運で藩を維持していたそうです。唐津城の3階で見られる『肥前国産物図考』というデジタルアーカイブされた展示が特に良くて、藩政を支えた捕鯨や焼き物、紙漉き、鹿狩り、アユのヤナ漁など、23種の生業を知ることができる。民俗学好きには目からウロコの資料。関連資料は唐津近代図書館で探せるし、佐賀県立名護屋城博物館では『海にいきる-江戸時代の唐津の暮らしと玄海灘-』という企画展の資料が買える。しかも、名護屋城博物館は入場無料。中世~近代の朝鮮半島との外交史がまとめて見られるし、名護屋城跡地も見学できます。近代だと、西洋風の建築、唐津銀行やJR山本駅が良いかなと。パナマ運河から来た船に大量の石炭を乗せて輸出していて、その石炭を引っ張る鉄道を作るのに唐津銀行が絡んでくる。JR山本駅には些細ながら石炭鉄道だったころからの歴史が展示されています。何よりこの駅は味があって良い。

観光客に揉まれて唐津くんちをずーっと見るのはさすがに疲れちゃうので、合間合間に行くのがおススメです。

 

せば、またの。

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