ひろろーぐ

小さな山村で暮らしながら、地域社会、民俗、狩猟、採集について考察・再定義するブログ

僕が大鳥民族誌を作った理由

2016/08/18

ども、田口(@tagu_h1114_18)です。

3年間の地域おこし協力隊が終わりを近づいていて、そろそろ来年度に向けた身支度を始めなければいけなくなってきました。

こないだ、協力隊の報告会を大鳥地域で行いました。

 

僕が大鳥に来たキッカケは、生きることに直結するものが身の回りにあるにも関わらず、どうして若者が山に住めなくなったのか…という疑問を京都の福知山の山奥で思ったから。

奇しくも、僕を山の世界へといざなってくれた萩原さんという大阪府守口市に住んでいた方は、2016年2月に亡くなってしまった。すぐにでも線香を上げに行きたいという気持ちを持ちながら、この民族誌の入稿に追われていて大阪に飛んでいくことができなかった。少し落ち着いたら、大阪にいこうと思う。

こうした別れは、大鳥に住み続ける限り近い将来に連続して訪れる未来であり、それまで僕に指導し、僕の血肉となっていった知恵や技術に感謝を覚えながら、ただ悔しい気持ちを抱くのだと思う。

 

生きることと死ぬこと。

 

これは僕が大鳥にきてから経験した熊狩りでの滑落などを通じて、29歳という年齢でもいつ、どこで死ぬかもわからないという現実を強烈に意識させてくれるものだった。

それと同時に、傍観者からは美しく、気高くも見える自然というモノが、暮らしの一部になった途端に猛威を振るい、死をも与えるモノでもあることを教わった。

 

大鳥が村として出発して800年余り。

その長い歴史の中で培われてきた山人の暮らしは、果たして現代に通用しないのか。どうしたら現代にも適用できるのか。そんなことを少しでも具体化し、他地域でも応用可能にするために、山の暮らしを現代版へと再定義することに一つの糸口があるんじゃないかと模索し続けてきた。

しかしその再定義も、山暮らしの”今”を見つめるだけでは決して紐解くことができないなと感じていた。

それは、大鳥の人たちの暮らしが、一世風靡したかと思えば2~3年で消えていくものが山ほどある都市の生活とはまるで違う側面を持っているから。80年前も今も、大きくは変わらない営みをしているから。

 

大鳥民俗誌について

2016-04-15-01

今回の民俗誌を作るにあたって、最初のキッカケをくれたのは、2014年のタキタロウ調査で一緒になった伊藤卓郎さん。

「地域の人の声は、今じゃないと聞けなくなる。タキタロウもそうだし、恐竜がいたというような嘘のような伝承話も、検証してみると面白いと思うよ。」そんな言葉を投げかけられた僕は、それをキッカケに民族誌を作ることを静かに決意した。2015年の冬だったと思う。

特異な文化として捉えられている熊狩りや、もう行われなくなった木流しの技術や知恵、経済的な側面、信仰が地域の中で果たしてきた役割などを調べていくことで、未来につながる何かが掴めるような気がした。変化が激しい現代において、何を捨て、何を残していくべきなのかの判断を主体的に行える材料を揃えられると思った。

そんなキッカケで、協力隊の最後の一年で民俗誌を作ることになった。

 

そして終わってみると、大鳥の歴史や民俗には詳しくなったし、大鳥の人との共通言語が確実に増えた。地域の中で大切にされてきたものが少しわかったし、もっと奥深い世界があることを知った。

だけど、当初思い描いていたような未来の姿は見えなかった。80人そこそこの山奥の集落だとしても、何百年もの年月、幾人もの軌跡をたった一年で知りえることなんてできないことが凄くよくわかった。

世の中には「歴史や時代を紐解いて未来を照射してます!」のような口ぶりで未来予測をする人がいるけど、多くの場合は、その人個人の思い込みや歴史を都合よく解釈して見える未来なんじゃないかなって思う。個人の見解としてそれはそれで良いと思いますし、僕が未来を語る場合も多分そんな感じなんだと思う。

逆に言えば、誰かがもっともらしく言う、来るか来ないかわからない未来に自分の人生をなびかせる必要はないなって思った。なぜなら、歴史を紐解くのは簡単な作業じゃないから。持論を展開するのもいいし、それを聞き入れるのもいいけど、なびく必要はない。

 

終わりに…

結果オーライにするつもりはないけれど、一年間やれて本当によかったと思う。一人で作業をする時間が圧倒的に多かったけど、何やかんや結構楽しかった。

だけど、頭を使いすぎて少し気持ち悪かった。民族誌の納期でてんやわんやになっている時に、とある大好きな方から「しのごのいわずにしっかりと現実を見て、ちょっとだけ思えよ」という言葉を頂きましたが、図星過ぎましたね。これからたくさん山に入って、現場でいろんなことを吸収していきたい。

 

あと、僕がつけたタイトル「大鳥の輪郭」について。

地域は特異な文化だけを切り取られがちだけど、地域は生もので、いろんなピースが集まってできている。だから、「本として売るには、何か一つに絞ったほうがいい。マタギならマタギ、みたいに突出させたほうが良い」と言われたこともあったけど、僕はそれをしなかった。

狩猟・採集はもちろん、家屋や神社、方言、伝説、山の道、信仰、家畜…など。いろんな大鳥に触れてきた。どれも内容が中途半端といわれても仕方がないが、その一つ一つが地域を形作っていて、一つ一つを知ることで地域の輪郭が少しは掴めるんじゃないかと思って、このタイトルをつけました。

 

 

それと、これだけ民俗誌について語っているのに予算の都合もあって刷れたのが100部だったが、嬉しいことに「読みたい」と言ってくれている人がいる。なので、そういう人に読んでもらえるような手立てを考えていきます。

提供できる形が整ったら、改めてブログで告知しますね。 2016年8月17日更新

販売ページができました。ぜひお買い求めくださいませー!

大鳥民俗誌『大鳥の輪郭』販売ページ

 

 

せば、またの。

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