ひろろーぐ

小さな山村で暮らしながら、地域社会、民俗、狩猟、採集について考察・再定義するブログ

山道調査をしていたら、森の中でくまさんに出会った。

2023/08/19

ども、田口(@tagu_h1114_18)です。

最近、村の人たちが昔使っていた山道の調査をしています。集落の周りにも、里山にも、奥山にも、人が歩いた山道はあります。

山道の使われ方は様々です。田んぼ、焼き畑、水路、茅刈り、木出し、炭焼き、山菜採り、茸採り、木の実拾い、杉の植林、発電所の鉄塔管理の道、鉱山に行く道などなど…。

人が歩く山道は総じて足で踏み固められているため、左右は草が生えていても、歩いた道には草が生えにくくなっていることが多く、数十年使われてないだろう山道でも見つけてしまえば辿っていきやすくなります。人は、四つん這いになって急登するようなことは好まず、ある程度緩やかに登って行けるようなところに道を付けてきました。急登なところはつづら折りに道を付けました。道幅に余裕がある尾根道は、西日を避けて道を付けました。一方で、日光がよく当たるひらけたところだと草が生い茂ってしまって道そのものを探すのが困難になります。

山道の中には集落の人たちが共同で草刈りをする道がありました。大鳥では8月下旬から9月上旬に、あちこちで山道の草刈りをしていました。現在では山道を使う人が少なくなってしまい、草刈り作業は行われていません。でも、個々では鉈やノコで簡単に山道の枝や草を払ったり、草を刈り、道を付けながら歩いているようです。

山の道を探して歩いていると、よくケモノ道にも遭遇します。ケモノだって、崖みたいな歩きにくいところはあまり歩かない。人がつけた道もよく歩きます。湿地のようなぬかるむ場所であれば足跡もある程度わかります。猿なのか、カモシカなのか、クマなのか。イノシシはまだ数が少ないので場所によっては警戒しませんが、クマの歩き道っぽいところはすこし緊張します。痕跡が新しかったり、気配を感じると「おぉ。」と、挨拶してみたりします。

 

とある山道を調査している時。今年の8月中旬、とても暑い日だった。その日は夕方3時頃から調査に行った。

歩き始めて20分くらいが経った時。突然、山の斜面からガサガサ!と大きな音がした。

その直後、僕が歩こうとしていた山道の上に、草の茂みからボンッと熊が出てきた。

思わず、「わぁー!」と声を出し、とっさに背中を見せずに急いで後ずさりをして距離を取った。距離は20mそこそこだったと思う。大きさは60~80キロだと思う。

クマはまだ山道にいて、僕のほうを見ている。僕の右手には杖、腰に鉈。

心臓がバクバクしながら、平らなところまで背中を見せずにいっきに下がって、じっと熊を観ていた。

10秒ほど経つと、クマは僕を避けるようには山の斜面を下っていった。

僕はその後もしばらくそこにいて、「子供はいないだろうか。」「ツガイがいないだろうか」と観て、わからなかったが先に進むのを諦めた。

 

帰り道にさっきのクマにまた遭遇しないか緊張しながら、「寝てたのかな。餌を食べてたのかな。お邪魔してしまったな。」という気持ちになった。

熊狩りではクマに会いに行くし、檻の中のクマや車内から熊を観ることはあったけど、生身で向き合うのは初めてだった。

こんなに緊張するのか。帰りながら、いろんな事を考えた。

 

・調査した山道は今となっては人がほとんど立ち入らない山で、植林された杉と広葉樹の両方が生える、西日が当たる山だった。

・周辺の山に比べて緩やかな斜度の場所があり、草木も多く、クマが生活しやすいところだったのだろうか。

・出会いがしらはクマが上、僕が下だったので、とっさの判断で平らなところまで後ずさりしたことは良かった。熊狩りで、熊が自分より上にいるのはまずいと教えられていた。

・出会いがしらに叫んでしまった。クマをかなりビックリさせてしまったのだと思う。

・クマも暑すぎて日中はあまり行動せず、夕方から採食をしていたのだろうか。

・クマも雑食とは言えど、無用に怪我したくないだろう。だから去ったのだろうか。

・最近、クマスプレーを山に落としたばっかりで、携帯していなかった。鉈と杖だけでいざという時に戦えるのだろうか。

・毎年熊狩りに行っているのに、鉄砲がないとこんなにも緊張するのか。

・今回もまた、山の神様に救われたのかな。

 

大鳥にはクマがいるのが当たり前という認識だが、至近距離でいきなり出会うと緊張しかない。クマスプレーがあったって、鉄砲があったって、多分心臓は爆発していた。昔の人は槍で突いたって言うけど、ほんとスゴイ…。クマに襲われた経験がある人の話とか、著書とか見てても、今までは「そうなのねー。」と眺めていたけど、読み直したらとんでもなく驚き。心のタフネスというか、やる時はやらなきゃいけないのだろうが、そのリアリティーたるや、経験者にしか伝わらないだろう。

数日後、クマと出会った山の近くに山道調査に行ったけれど、クマが通ったであろう道を見つけると、すこし緊張した。

 

人によっては、クマとの出会いはトラウマになるかもしれない。けれど、山を避けては大鳥で暮らす意味もないだろう。当然、先人たちもクマたちと付き合ってきた。自宅のそばにある畑でクマに出会った大鳥の山ベテランがこんなことを言っていた。

「大鳥ではクマに襲われたって話は聞かねぇな。例えばワラビ採りにいった時。最近だけどもクマの糞いっぱいあるところにワラビがあるわけや。そういう時に声たてたり、大声たてたりはしねぇんだや。だはけ、クマも平気で襲い掛かってこないし、俺ワラビ採ってるとその辺でミズバショウ食べているような状況。ほんとの友達みたいに。そういうことはあるな。何か脅したり、熊が忘れられないようなことをするとやっぱり熊も襲い掛かってくる可能性はあるんじゃねぇの。『こら!』みたいなそういう脅し方はしねぇんだや。『おぉ!』ってくらいの声だな。普通だば叫ぶとかビックリして大声かけたりするろ。そういうことしねぇんだや。挨拶するような。だはけこの辺のクマは人を怖れてねぇってこともあんなかなって。」

 

どうやったらクマと仲良くなれるだろうか。

狩猟をやる人にはわかる感覚かもしれないけれど、狩猟をすると獣への興味が深まっていく。好きになっていく。そうしないと獲物との距離は縮まらない。その意味で、僕とクマの距離はまだまだ遠い。

 

今回の体験を地域の人たちに話したら、「そうかー。おっかなくねっけかや。杖でぼったくってやればいいなやー!」くらいに返された。

なんたる生涯学習。すごいぞ大鳥。

 

一人山は学ぶことも多いけど、リスクも多い。

クマに出会った時にあまり驚かず挨拶できるくらいの精神力と、出会いを避けるための知恵・判断を…山で培いたいと思いました。

貴重な経験を有難うございました。まだまだ修行が足りません。精進してまたお邪魔します。

-雑記

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