若者によって再定義される2つの狩猟スタイル。
2015/01/29
「あらゆることの再定義が進んでいる。」
先日、MATCHAのトークイベントに参加したときに元Google日本法人代表の辻野晃一郎さんの言葉を聞き、狩猟について少し考えさせられるキッカケになりました。
ども、狩猟サミット2014 in富士山に参加してきた田口(@tagu_h1114_18)です。
(ちなみに狩猟サミットというのは、狩猟者・狩猟に関心がある人との交流も含めた勉強会を年一回行っていて、今年は約200人で、平均年齢が35歳、男女比が2:1という参加状況らしく、若くて女性の参加も目立つ。現場の熱も凄くて、若者が狩猟に強く関心を持っていることが伝わってきます。)
今も猟師人口は減り続けている。けれどなぜか、若者を中心に狩猟が注目されている。狩りガールも徐々に増えている。こんなムーブメントは一昔前では起こり得なかった。
狩猟は元々どんな位置付けだったのか、狩猟が現代においてどのように再定義されたのかを、先進事例も紹介しながら自分なりに考察してみました。
参考:僕がハンターになったわけ~銃社会ではない日本で、銃を持つということ~|ひろろーぐ
本来、農業と狩猟はセット。
狩猟サミット2014の基調講演で東北芸術工科大学教授の田口洋美先生から聞いた、目から鱗なご説明をお借りしたいと思います。
農耕文化が始まる前から狩猟・採集を行われてきましたが、農耕文化が日本に根付いてからも狩猟はしっかりと続けられていた。なぜなら、農作物を作れば鳥獣被害を受けることは必然だから。
そして農業を発展させればさせるほど、獣の餌をドンドン作ることと同じ意味になるので獣害対策に力を入れなければいけなくなる。つまり、農家と狩猟者は背中合わせではなく補完し合う関係にあって、農家が増えるのであれば、狩猟者も増やさなければいけなくなる。
しかし、市場の原理を前提とする今の社会では、狩猟・農耕は共に市場の原理に負けてしまっている。
現代では食という面において狩れるか狩れないかわからない狩猟よりも、農業や畜産で確実に食べ物を作っていくことのほうが重要視されている。狩猟がすっかり裏方に回ってしまっているように見えますが、存在意義があることは確かですね。
しかし、人件費の安い国から安価な食料を仕入れられるようになったからこそ、日本国内の農業は徐々に衰退してしまっている。農家と狩猟者が同時進行で高齢化し、担い手不足となっているのも、根本の問題は実は同じかもしれません。
里山保全という名の社会的意義が強い狩猟と、ライフスタイルとしての狩猟。
そんな中、2つの狩猟スタイルが登場してきました。
一つ目は、社会的意義をしっかり持ち、ビジネスとしての狩猟を展開していくスタイル。
昔から日本に根付いてきた文化として狩猟がありながらも、テクノロジーが進化した現代においても農作物を中心とした実被害は減っていない。むしろ年々増えている。
狩猟ありきの農業なので「これからは全ての食べ物を輸入にする!日本で農作物を一切作らんでいい!」とならない限りはハンターも必要で、狩猟が社会的に求められることは必然である。
とはいえ、お金も得られるからこそ活動が続けられるというのもおおかた事実。世間一般のイメージとして「猟師は稼げないから担い手がいないのもしょうがない…」的な目線かもしれないが、補助金頼りではなく、ビジネスとして普通に稼いでいったら持続可能度合いは増す。狩猟の社会的な存在意義も増す。
岐阜県郡上を拠点とする猪鹿庁さんは、狩猟で稼ぐことにかなり精力的に取組んでいます。猪骨ラーメンに始まり、猪ジャーキー、『猟師とエコツアー』などのイベントを主催、箱わなの販売、鳥獣被害対策支援「守り、捕獲できる集落倍増計画」などを行っています。講演を伺うとかなり紆余曲折あったようでしたが、現在はエコツアー、鳥獣被害支援を中心に稼ぎ、雇用も含めてビジネスとして普通に成り立っているそうです。組織や団体で狩猟を通じてガッツリ稼いでいくことを考えている方は絶対に猪鹿庁さんへ視察に行ったほうがいいです。狩猟で稼ぐ手段として上げられる調査・駆除・肉・皮・ツアー(イベント)のどこが稼ぎやすくて、どこが稼ぎにくいとかを教えてくれます。
一方、「ぼくは猟師になった」著者の千松信也さんや「ちはるの森」著者の畠山千春さんはライフスタイルとして狩猟をしている。
「鳥獣被害が大変だから、沢山猟に出なきゃ!」なんてことはなく、「自分が食べるお肉くらいは裏山から獲れたらいいな」くらいの感じでやっていて、肩に力が入っていない。
家にお庭があるので家庭菜園でもやろうかな…みたいなノリですね。
暮らしの中に狩猟が根付き、狩ることで美味しいお肉をほぼ無料で得られる。それが結果的に家庭の支出を下げるので、稼ぐ金額も少し減らすことができるようになる。
狩猟サミットで千松さんの講話を聞いていると、本当に好きで狩猟をされていることが言葉から伝わってきた。千松さんのスタンスから敢えて、社会的意義を考えるとするならば、「自分が食べる分の肉を無理なく狩る人が増えれば、必然的にシカやイノシシの数は減っていくよね。」という感じだと思います。
終わりに
どちらも同じ狩猟をしているし、本質的にやっていることは変わらないのだろうけど、向き合うスタンスが違う。近年価値が見えなくなった毛皮や肉を、再度ビジネスとして現代の市場経済の中で価値をしっかりと見出してもらう狩猟と、昔ながらの暮らしの一部としての狩猟。
現代の中で再定義された2つのスタイルが同時進行的に、インターネットを通じて加速度を増して広まり、ある種のブームのようになっている。千松さんが講話の中でこんなことを言っていた。「僕の身の回りでブームに乗っかって?猟師を始めた人はいたけど、みんな2~3年で辞めてしまった。」「ブームだの趣味だのといって始めるようなものではないのかもしれない…」と。
さて、10年後にはどうなっているのか…。
僕も『マタギ見習い』と称し狩猟を始めた身として、経験を重ねながら狩猟スタイルや狩猟の未来をもっと深く考えていけたらいいなと思う…。
ちなみに上記二冊は、暮らしとしての猟師をステキに表現されている名著。僕は畠山千春さんの本しか読んだことがありませんが、こちらは女性向けな感じでした。でも、巻末には猪のなめし方や調理法、加工方法が載っていてためになります!
千松信也さんの本は、狩猟サミットで出会った人たちがバイブル的な感じで読んでいて、紹介してくれました。余裕が出来たら読んでみたいです。
勿論、以前紹介した山賊ダイアリーも超オススメです♪
ハンター志願者にオススメ!狩猟漫画『山賊ダイアリー』が有益かつ面白い!|ひろろーぐ
せば、またの。