ひろろーぐ

小さな山村で暮らしながら、地域社会、民俗、狩猟、採集について考察・再定義するブログ

今やらないと失われていくものばかり…。民映研『越後奥三面 山に生かされた日々・ふるさとは消えたか』を観てきました。

2017/03/28

ども、田口(@tagu_h1114_18)です。

越後奥三面と言われても、山の暮らしや民俗学などに関心が無いとピンとこないと思いますが… 山の恵みの映画たちという山形の映画イベントにて、『越後奥三面 山に生かされた日々(147分)』と『越後奥三面 ふるさとは消えたか(156分)』の二本を見てきました。

民族文化映像研究所(通称:民映研)という団体が作られたドキュメンタリー映画なのですが、本当に素晴らしい映画でした。  

 

第一部の『越後奥三面 山に生かされた日々』では、奥三面集落の生活習慣がこと細かく、映像として残っています。

地域行事のこと、ゼンマイ小屋のこと、子供のこと、田植えのこと、木の実のこと、キノコ採りのこと、焼畑のこと…。本や写真で見ることはあっても、映像として見れるとイメージが一気に具体化します。

 

特に印象的だったシーンが、民映研の姫田さんという代表の方が当時、奥三面のマタギの人たちに熊狩りの同行取材の交渉をし、地域の人から断られているところ。 あれが現実なんですよね、実際。

今までの研究の中での関わりもありつつ、それでも何度も何度も取材交渉をして、やっと一度だけ、途中までカメラが入れたみたいでした。

よっぽどの条件が良い山か、よっぽど残雪時期の山を歩ける人でもない限り。それでも、情熱をもって、何度も足を運んで取材交渉をするくらいの覚悟がないと、無理です。余り知らない他人の命を面倒みながら熊狩りはできません。

あぁいう取材の過程・地域の肉声をカットせず、映像として残していることは本当に素晴らしいと思う。 民俗学に興味がある方、東北の山間部に住む人は機会があればぜひ観てほしい映画です。  

 

そして第二部の『越後奥三面 ふるさとは消えたか』は、奥三面集落がダムに沈むまでの過程、別の地域へ移転を余儀なくされた人たちの暮らしぶりや感想を、11年にも掛けて作った作品。  

豪雨によって大損害を受けた経験があり、県がダム建設を立案。集落の人たちは、最初は強く反対していたものの、集落の何人かはダム建設のための調査か何かに協力する姿が途中から出てきて。村の人たちも苦心に苦心を重ね、最終的には致し方が無し…といったところで合意に至った過程が、映像の中で見られます。

そして村を出ることになる、その最後の最後まで、山の資源を利用した自分たちの暮らしを続けて行く姿も…。集落周りの木が一本ずつ切り倒されていく様子も。壁が無くなった家でご飯を食べる家族の姿も。ユンボーで家が崩されていく様子をただジッと、眺める高校生も…。 記憶が曖昧なのですが、奥三面集落の人に集落が無くなっていく過程を映像にすることに関して民映研の姫田さんコメントを求めたところ「こんなこと別に残さなくても…」のようなコメントをしていたシーンもありました。

なんていうか、観ていて胸がジワジワと切り裂かれるような…。  

800年も続いた越後奥三面の暮らしが、県からの打診があって、時代背景的にもやっぱり大きなモノがきっと強くて、だけど「最終的には自分たちも合意したんだから…」という受け止め方をし、「自らの手で村を閉じなければならない。先祖に申し訳ない。」と語られていた。

映像を見て行くと、県の進め方も強引と見て取れるようなシーンもあったが、僕自身が住民や県側として関わっていた訳ではないし、真相はわからない。 だけど、『本当はこんなことをしたくないのに…』という気持ちを抱えながら地域の人が自らの手で仏壇を燃やして供養したり、お墓の骨を掘り起こしたり。多少なりとも自分たちが出て行く準備をしていく姿は…なんとも言えないものがある。  

第二部の『越後奥三面 ふるさとは消えたか』も本当にお勧めです。 どこでも観れるものではないですが、機会があればぜひ観てほしい。  

終わりに…

奥三面集落があったところは、実は僕が暮らす大鳥集落からスーパー林道という道路を通って行くとダムまで行ける。時間にして1時間半くらいと、そこまで遠くない地域。

奥三面ほど川が大きくないので丸木舟を作る風習は大鳥にはないけれど、それでも行事の節々、生業などでは似ているところ、共通するところが幾つも見てとれ、余所事として思えなかった。  

 

僕の暮らす地域も、10年先、20年先って考えると、失われていくものがあまりにも多すぎる。時限爆弾みたい。 大鳥が山に関わり暮らしてきた歴史は800年と言われ、時の流れの中で効率を上げるために知識を蓄積し、道具を変化させてきたが、山との関わり方など、変わらない部分も恐らく昔から引き継いできた。

今、大鳥に生きているおじいちゃん・おばあちゃん世代の人たちは、まだその知恵と経験を持って生きていると思う。 それらが完全に亡くなる前に。失われる前に。どうにか形として残したい…。と強く思い返す機会になった。  

 

僕はもうすぐ30歳。 一般的にはこれからまだまだ沢山の出会いがあると思うが、僕の場合は別れの方が多くなりそう。けれど、そんな刹那も悪かないと思う。 大鳥地域の研究、これからも続けていきます。  

 

 

奥三面関連の本だと、上記2つは読んだけど面白かったです。こちらも合わせてぜひ!   せば、またの。

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